PCBEを用いた基板パターンの作図

1.この文書の目的

 この文書では,ミッツ社製プリント基板加工機FP-7で片面基板を作製することを前提として,PCBEを用いて基板パターンを作図する方法について述べる.

2.基板の加工

 加工前の基板を図1に示す.この基板は,絶縁体である紙フェノール板に銅箔を貼り合わせたもので,銅張積層板という.また,銅箔が片面のみに貼り付けられているので,片面基板という.図1の(a)は紙フェノール板面を,(b)は銅箔面を示す.

 FP-7では,銅箔面をミリングカッタで切削し,端子をはんだ付けする部分であるパッドや端子間を接続するラインを周辺の銅箔部と絶縁することにより,基板のパターンを作り出す.基板の断面から見たミリングカッタによる切削の様子を図2に示す.

 ミリングカッタによって作り出されたパッドやライン上に,端子を挿入するための穴を開け,必要に応じて基板の外周を切断すると,プリント基板が完成する.FP-7によって加工した基板の例を図3に示す.

3.PCBEによるパターンの作図

3.1 概 要

 FP-7を用いる場合でも,エッチングによる場合でも,プリント基板を作製するためには,パターンの形状や位置を記録したガーバーデータ,穴開け位置を記録したドリルデータ,ランドやラインの大きさを記録した加工条件データ,穴の大きさを記録したドリル条件データを作成する必要がある.

 PCBEは,プリント基板のパターンを作図し,上記のデータを作成するためのエディタである.なお,PCBEは高戸谷 隆氏作製による,フリーソフトウェアである.

3.2 用語の定義

 PCBEで作図を行なう際に用いられる用語とその定義を以下に示す.

レイヤ

 作画する層のこと.加工される層や加工の種類によって使い分ける.FP-7による片面基板の加工では,次のレイヤを使用する.

パターン1
はんだ付けを行なう面において,裏面の銅箔を削り出すことによって構成されるランドやラインを配置する.
穴を配置する.後述するパッドは,パターン1と孔の双方に配置される.
外形
基板の外周を表わす線を配置する.このレイヤで示された線によって,銅張積層板から基板が切り出される.

 次のレイヤは,FP-7による片面基板の加工では使用しないが,作図の際に利用すると便利である.

シルク2
部品が実装される面に印刷される線や文字を配置する.部品番号や部品の外形を描いておくとよい.
補助
基板を加工する際には必要とされないが,作図上必要な線や文字を配置する.

 上記以外にも以下のレイヤがある.

レジスト1/レジスト2
プリント基板には,両面とも絶縁のための薬品を塗布し,膜を形成させるが,はんだ付けされるパッドの部分はこれが不要である.レジスト1にははんだ付けを行なう面において,レジスト2には部品を実装する面において,この膜を形成させないようにする部分が描かれる.
パターン2
部品が実装される面に構成されるランドやラインを配置する.
シルク1
はんだ付けを行なう面に印刷される線や文字を配置する.
ランド
 基板上に作り出される円形または正方形の図形のこと.主として銅箔で構成され,部品のはんだ付けに用いられる.円形のものは丸ランド,正方形のものは角ランドと称する.PCBEでは,丸ランドを穴開け位置の指定にも用いる.
ライン
 ランド間を接続する配線のこと.先端が円形になった丸ラインと,四角形になった角ラインがある.
パッド
 円形のランドを組み合わせたもの.部品の端子や導線をはんだ付けする電極つきの穴に用いられる.FP-7による片面基板の加工では,パターン1と孔の両レイヤに配置される丸ランドを組み合わせたものを用いる.
アパーチャ
 作画する要素の形状や大きさのこと.PCBEでは,1図面当たり,丸と正方形のそれぞれについて,256通りの大きさを用いることができる.それぞれのアパーチャの値は,0.001[mm]以上100[mm]以下の範囲で自由に設定できる.

3.3 作図の手順

 作図の手順は,おおむね以下のとおりとなる.

(1)初期設定

 使用するレイヤとグリッドを設定する.グリッドの間隔は,2.54[mm]の1/8=0.3175[mm]とするとよい.

(2)部品の作成

 部品を取り付けるためのパッド,部品取り付け用の穴及び部品の外形を表わす線の組を作成する.使用レイヤ及びアパーチャは表1のとおりとする.

 部品取り付け用の穴は,多くの場合1.000[mm]より大きいが,基板加工機の制約から,基板加工機で1.000[mm]の下穴のみを開け,別の工程で必要な大きさの穴を開けることにする.そのため,ここでは,下穴を孔レイヤに作図すると共に,最終的に開ける穴の大きさや中心がわかるような補助線を補助レイヤに描くことにする.

表1 使用レイヤと設定(1)
項目 使用レイヤ アパーチャ 備考
パッド パターン1 1.800[mm]〜2.000[mm]
1.000[mm]
取り付け穴 1.000[mm] 下穴として用い,別の工程で必要な大きさの穴を開ける.
補助 0.100[mm] 穴の中心や大きさを示すために用いる.
外形線 シルク2 0.100[mm]

 部品の外形を表わす線は,FP-7を用いた基板加工では不要である.しかし,作図を行なう際には,各部品の大きさを考慮して,部品やその他のパッドを配置する必要があるため,この段階で描いておく.

 部品の向きは,以後の作業で変更できるので,この段階では任意でよい.

 パッドは端子の間隔に応じて配置される.グリッドの設定を(1)のようにすると,ICのように端子の間隔が100[mil]=2.54[mm]の倍数になっているものについては,グリッド上にパッドを配置して行くことになる.抵抗やコンデンサなど,端子の間隔をある程度調節できるものについては,2.54[mm]の倍数かつ実装しやすい間隔でパッドを配置するとよい.端子の間隔が0.1[mm]の倍数になっているものについては,以下のように配置する.

端子間隔が2.54[mm]になっていない部品におけるパッドの配置
  1. (1)で設定したグリッド上に1つのパッドを配置する.これをこの部品の基準の位置とする.
  2. 1.で配置したパッドの座標値を記録する.
  3. 2.で記録した座標値から,次に配置するパッドの座標値を計算する.
  4. 作画メニューの「数値入力」を利用して,3.で計算した座標にパッドを配置する.この方法は,新規にパッドを描く場合でも,コピーしたパッドを貼り付ける場合でも利用できる.
  5. 2.,3.,4.を繰り返し,すべてのパッドを配置する.

 1つの部品のパッドと外形線は,グループ化しておく.

(3)部品の配置と配線

 (2)で作成した部品,導線をはんだ付けするためのパッド及びそれらを接続するラインを配置する.各設定値は表2の値とする.これらの配置においては,以下の点に留意する.

表2 使用レイヤと設定(2)
項目 使用レイヤ アパーチャ 備考
パッド 表1に同じ 表1に同じ
ライン パターン1 1.000[mm]以上 ライン上に穴を開ける場合はアパーチャを1.500[mm]以上とする.

(4)基板固定用ねじ穴と部品番号の配置

 基板固定用のねじ穴,取り付ける部品を示す部品番号及びその他必要な記号を配置する.ねじ穴については,表1における取り付け穴と同様のレイヤ及びアパーチャを使用して作図する.必要な大きさの穴を別の工程で開けることも同様である.

 部品番号及びその他必要な記号については,表3に示すレイヤ及び設定で作図する.本来のプリント基板であれば,シルク印刷(PCBEではシルク1またはシルク2レイヤを使用)となるが,その代用として,パターンで文字を作製することとしたものである.PCBEで作成する図面は,部品実装面から見た図であるが,文字が生成されるのははんだ付けをする面であるため,文字を反転させておく必要がある.

表3 使用レイヤと設定(3)
項目 使用レイヤ 文字高さ 角度 太さ 反転
部品番号等 パターン1 1.5 任意 0.200[mm] する

(5)基板外形線の配置

 これまでに配置したランド等を囲み,基板の外形を表すラインを配置する.表4に使用レイヤとアパーチャを示す.ただし,加工時には直径2.0[mm]の工具で切削を行なうため,それを考慮に入れて,(4)までに配置したランド等との距離を確保する.

表4 使用レイヤと設定(4)
項目 使用レイヤ アパーチャ 備考
基板外形線 外形 0.200[mm]

(6)データの出力

 以下のデータを出力する.これらの内,基板データはPCBEの作図データを記録したものであり,それ以外は基板加工に必要なものである.

 レイヤをパターン1,外形及び孔の3つとして作図した場合,全部で7つのファイル(ガーバーデータ3,その他のデータ各1)が作成されることになる.

4.PCBEの操作法

 以下のリンクを参照して下さい.